<催 眠 療 法 と は>
◇ 催眠療法とは ◇ 催眠療法の歴史 ◇ 催眠療法の技法 ◇ 催眠アプローチ   




肉体的あるいは精神的な症状の治療目的に催眠を使うことを、一般的に催眠療法と呼んでいます。
催眠療法にはいくつかの異なった技法やアプローチ方法があります。どのようなアプローチや技法を使うかは、クライアントが催眠療法から得たい結果やクライアントの置かれている状況などを考慮して、最善の方法が選択されます。

催眠療法で効果が期待できる肉体的・精神的症状は、例えば頑固な頭痛や慢性的な胃痛から、強迫神経症や心的外傷後ストレス症候群(PTSD)まで、多くの症状が上げられます。
また、スポーツ選手や芸術家のように、身体的能力の発揮やインスピレーションの獲得を目的としたものや、事業の成功といったような願望達成をサポートすることまでと、催眠療法によるリラクゼーションや催眠暗示の効果は、多くの目的に活用することができます。

催眠療法は、もちろんテレビなどで行われている【催眠ショー】とはまったく違うものです。
催眠療法では、自分の意思に反した行動を強制されることはありませんし、感情を自分以外の人に操られることもありません。
自分の話したくないことを無理やり喋らされることもありませんし、自分のしたくない行動を自分の意思に反してさせられることもありません。
また催眠療法中に意識がなくなってしまったり、記憶が途切れたり欠落してしまうこともありません。あなたはしっかりとした意識をもちつづけますから、周りの音や気配も普段どおりに感じることが出来ます。そしてあなたが催眠状態から抜けたいと思えば、いつでも自分で催眠から覚めることも出来ます。そして催眠中の記憶も途切れずにきちんと残っています。

実はテレビなどで行われている【催眠ショー】にしても、出演しているタレントさんたちが催眠術師に完全に操られているわけではありません。表面の主に判断をする意識の働きが弱まっていますから、お酒を少し飲んだときのように多少開放的になっているかも知れませんが、自分がやりたくないことはやりませんし、催眠状態から離れようと思えばすぐに離脱することが出来ます。
実際に催眠術ショーの間に地震が起これば、いままでアヒルの真似をしていたタレントさんたちも一目散に逃げ出すはずです。
タレントさんたちにしてみれば、これは催眠ショーというテレビプログラムであり、ギャラを貰ってお仕事として参加しているわけです。期待される自分の役割を果たせなかったり番組が盛り上がらなかったりしたら、きっと次のお仕事に支障が出ることもあるかも知れません。テレビの催眠ショーは、そのような状況で収録されていることを考慮する必要があります。
またもしも、催眠術が個人の意思に反した行動をさせることが出来るのだとしたら、とっくに軍事的に利用されているでしょうし、独裁者や支配者たちがそれを悪用して思うがままに人々を操っていることでしょう。


私たちの意識は、大きくふたつの領域に分かれています。ひとつが【顕在意識】で、もうひとつが【潜在意識】です。
意識全体を100とした場合、その内の5〜10を表面の意識である顕在意識(現在意識とも表層意識ともいう)が占めており、残りの90〜95を潜在意識が占めています。
よく意識を氷山にたとえますが、それは氷山のうち海面上に姿を見せているのは氷山全体の15%程度で、残りの85%程度は海面下にあって姿を見せていないからです。
この感じは意識のありようによく似た状態です。

さて、その顕在意識と潜在意識の働きについてですが、顕在意識は意識の表にあって、食べたり飲んだり仕事をしたり勉強をしたりといった普段の生活のあれこれの選択や判断などを行っています。
潜在意識は顕在意識の下に潜んでいて、私たちを内から突き動かしています。

私たちの意識の大部分を占めている潜在意識の特徴は、大きく分けて4つあります。
一つは、膨大なデータベースであるということ。二つは、24時間休みなく(眠っている間も)活動しているということ。三つは、物事の善悪や正誤を判断しないということ。四つは、イメージと現実の区別がつかず、イメージが強い場合は現実よりもイメージの方を受け入れるということです。

私たちは自分自身の行動や選択の動機について訊かれた時に、「ふと、そう思ったのです」と答えるときがあります。別段理由はないけれども、このデザインの服を着たい気がした、とかいうこともあります。この「ふと、そう思った」とか「そんな気がした」とかいう感覚の因となっているのが潜在意識の囁きです。
潜在意識は私たちが意識しないうちに私たちの行動や思考や判断に影響力を及ぼして、私たちの人生を左右し創りあげています。

このように私たちの人生に大きなかかわりのある潜在意識ですが、潜在意識は普段顕在意識の下に隠れてしまっていて、直接働きかけることが難しい意識領域です。しかし、潜在意識にコンタクトしたり働きかけたりすることは、自分らしく生きる上でとても重要な意味があります。
そこでリラクゼーションを行って意識にコンタクトしやすい状態をつくり、つづいて左脳のスイッチを切って顕在意識の働きを弱めて右脳優位状態にし、いわゆる変性意識状態(トランス状態)に誘導して潜在意識にアクセスしやすくするのです


私たちは自分でも意識しないうちに、望まないプログラムを潜在意識下に蓄積しています。
それは私たちの経験やその体験から起こる感情などが組み合わされて蓄積される情報です。それらの情報プログラムの中にはネガティブなプログラムもあります。それがいわゆる【原罪】意識となったり、自己処罰的行為を惹起したりする場合があるのです。

例えば、あなたが幼い頃に水に関して経験したことが、潜在意識において水に対するネガティブなプログラムとして記憶されていて、それがために現在のあなたは水に対して恐怖の感情をコントロールできずにいる、といったようにです。
そのような現在のあなたにとって必要のないプログラムを消去したり、書き換えたりするために用いるのが、潜在意識にコンタクトして働きかけることが出来る「催眠療法」なのです。


 

催眠の歴史はとても古いものです。
紀元前3000年頃のエジプトの王の墓には、象形文字で催眠の手順が刻まれいます。催眠療法について書かれている最古の文書は、紀元前1552年以前のエジプト医学の実技を記録したエーベル・パピルスです。もちろんこれらの方法は現在よりも呪術的色彩の濃いものでした。

「医学の父」であるヒポクラテスも、催眠療法を用いていたと考えられています。
聖書にも初めて催眠が行われた記述が「創世記」第2章21−22節にあります。この場面では、催眠は麻酔として用いられています。

近代催眠との関係でいえば、最も有名な古代遺跡はエジプト・ギリシャ・ローマにある眠りの寺院でしょう。
エジプト・ナイル河のほとりにある眠りの寺院は、紀元前5世紀頃に豊穣の神イシスを祀る寺院として建立されました。イシスは当時治癒力をもつ神としても信仰されており、その力を人々の治療に利用していたのです。
それは被験者が呪術師的な僧侶によって磁石に吸い寄せられるように眠りに陥り、そこにイシス神が現れて診断と治療法を告げるというものでした。

近代催眠療法の歴史は18世紀に始まります。それは異彩を放つオーストリア人医師、フランツ・アントン・メスメール(1734−1815)によって幕を開けられました。
メスメールは、病気は体内の磁力バランスが崩れることによって起こると考えていました。そして体内磁力バランスを補正するために、磁力をためておく「磁気桶」を考案して治療に用いました。しかし、現代では彼の手技が患者の自己催眠を誘導し、それによって患者の潜在意識が活性化されて治癒力を向上させたのだと考えられています。

トランスが持つヒーリング効果に光をあてたのは、スコットランド出身の眼科医である、ジェームス・ブレード(1795−1860)でした。
催眠(ヒプノーシス)という語句は、ギリシャ語で眠りを意味する「ヒプノス」から彼によって創られました。
ブレードは、メスメリズムによって引き起こされるトランス状態は神経系の属性に起因しており、神経系が激しく消耗したときに催眠状態が現出すると考えました。
ブレードの神経学的理論は誤ったものでしたが、催眠を科学的な用語を用いて生理学的・解剖学的な基礎の上に建たせようとしたことには意味がありました。このことによって彼の仕事は科学者からも信頼されるものとなったからです。
また、フランスの権威ある科学者数人が催眠に関心を寄せました。

その中の一人ジャン・マルタン・シャコー(1825−93)は、フランス・サンペトリエール病院の精神科の医師でした。
彼が暗示によって引き出した催眠現象の多くが、ヒステリー症状によく似ていたことから、シャコーは催眠は精神に変調をきたした人にだけ生じる病理学的な状態であるという、間違った学説を立てる基本的な誤りを犯しました。そして、シャコーの後継者であるピエール・ジャネットも同じ轍を踏んだのでした。

医学博士オーギュスト・アンブロワーズ・エリボー(1823−1903)とナンシー大学心理学教授イポリット・ビルネーム(1837−1919)は、催眠を心理学的な原因に基づく正常な現象と認めた最初の科学者でした。彼らは催眠を治療の一環として使えるのではないかと考えました。

ジークムント・フロイトもまた、フランスのサルペトリエール病院で催眠状態の精神疾患者を観察する機会を得て、以後「無意識」を軸として独自の心理療法理論を展開することになる初段のインスピレーションを受けました。

やがて1955年までに、英国医師会が催眠療法を治癒力のある治療法のひとつとして認定することとなり、次いで1958年にはアメリカ医学協会(AMA)が催眠を医学的に効果のある治療法として承認しました。

アメリカの精神科医で心理学者でもあるミルトン・エリクソンは、催眠には治療以外にも更なる可能性があり、それはもっとクリエイティブな方法で利用することが出来ることを示しました。
そうして催眠は医療以外の目的で、動機付け(モチベーション)、創造性の解放、悪癖の解消などの多くの分野で活用されるようになりました。それは、催眠によって自分自身をより深く理解し、心をリプログラミング(再設定)することができれば、人間は本来各人に備わっている創造的可能性に到達することができる、という考え方に基づいています。

退行催眠というアプローチから見ると、アルベール・ド・ロシャが1890年代に行った、被験者たちに過去生を思い出させる実験などがありますが、退行催眠の施術自体は、かなり古くから試みられていました。

1950年には退行催眠から得られる情報によって生まれ変わりを研究していたアレクサンダー・キャノン博士が、千件にも及ぶ事例を調査して、生まれ変わりの存在を認めざるを得なくなったと発表しました。その後もキャノン博士は「過去生療法」として数千人の恐怖症患者の治療を行って成果を挙げましたし、臨床心理学者のイーディス・フィオレ博士などほかの研究者からも支持されるようになってゆきます。

1986年、トロント大学医学部の精神科主任教授をつとめる、J・L・ホイットン博士の「Life Between Life」(邦題「輪廻転生」片桐すみ子訳人文書院)や1988年、マイアミ大学医学部教授である、ブライアン・L・ワイス博士の「Many Lives, Many Masters,」(邦題「前世療法」山川絋矢・亜希子訳PHP研究所)などの出版により、アメリカやヨーロッパなどでは退行催眠療法や過去生の存在は社会的認知を受けるにいたりました。
ワイス博士の「前世療法」はその後日本においてもベストセラーとなり、催眠療法を治療法として定着させる原動力のひとつとなりました。

現在では多くの催眠療法士が日本でも誕生し、全国各地で心理療法のひとつとして、また創造力の解放などを目的として施術を行っています。最近では自分自身の前世(過去世)を知りたい好奇心から、催眠療法を受ける人も出てきています。


 

催眠には大きく分けて三つの種類があります。
普通の催眠(リラクゼーションだけのものと、暗示を用いるもの)、自己催眠、そして覚醒催眠(これにはリラクゼーションの要素は含まれていません)です。
催眠それ自体は治療ではありませんが、その中で特別な治療効果を挙げるためにさまざまな技法を活用するとき、それは催眠療法となります。

エリクソンの催眠療法
ミルトン・エリクソンの技法は、類似(アナロジー)を用いて被験者の顕在意識の外側に暗示を与えるというものです。
しかし直接的なアプローチが用いられるときもあります。このかたちの催眠の特徴は、古典的な誘導技法をあまり用いず、被験者の白昼夢や創造力を用いて戦略的な暗示を行うという点です。

暗示催眠療法
この技法は依存症の治療にしばしば用いられます。
療法士はポジティブな暗示、例えば「症状は消えていきます」とか「その行動パターンは変わります」といった暗示を患者に植え付けます。
重度の依存症に対しては、分析的催眠療法といったより複雑で精緻な催眠技法が必要とされる場合もあります。

分析的催眠療法
催眠分析ともいわれるこの技法は、催眠を用いて問題を無意識レベルで分析するものです。
それは退行催眠や、潜在意識にネガティブな印象を植え付けた過去の不快で忌まわしい出来事を再構成するという形で行われます。
療法士は問題に蓋をしている埋没された記憶や感情を思い出すように導くことによって、あなたを退行させます。

認知行動催眠療法
この療法は認知行動心理療法の実践的な技法を活用するものです。
それは不合理で無益な、破壊的かつネガティブな自己評価や行動パターンを除去することに焦点を合わせた技法で、クライアントはそれらを除去し、代わりに建設的な思考を獲得することが出来るようになります。
催眠を導入することによってその過程は早められます。




□ リラクゼーション
 ・・・ 催眠誘導により、心身を深いリラックス状態へ導きます。いわゆるトランス(深い瞑想)状態である「変性意識状態」に誘導し、うちなる声が聴こえやすい(自発的気づきを得やすい)意識状態を作り出します。

□ 後催眠暗示 ・・・ 変性意識状態において、直接的な暗示を行うアプローチです。自分が善しとしない癖(習慣)を修正したり、自分が得たい精神状態や感情を確立するサポートとして行います。

□ 年齢退行・幼児退行 ・・・ 催眠誘導により、問題の原因となった体験が起こったときへ逆行するアプローチです。幼い頃や幼児期には、自分でも忘れてしまっているトラウマ的体験がある場合があります。その体験が現在にまで影響を及ぼし、期待していない効果を顕している場合は、体験を再構築することによってネガティブなプログラムを解消します。

□ 胎内退行 ・・・ 幼児退行をさらに進め、出産以前の母体内にいたときに逆行するアプローチです。年齢退行・幼児退行で問題の原因が見つけ出せなかった場合などに行うアプローチでもあります。母親との親子関係を築きなおしたいときや、胎内環境の事後的修正などに有効な場合があります。

□ 過去世(前世)退行 ・・・ いまの生より前に肉体をもって生きていたときに意識を戻すアプローチです。現在の問題の根源となる体験が、年齢退行・幼児退行などを行っても見つからない場合や、年齢退行に向かない状況の場合に行うと効果があります。過去世(前世)から引きずったままになっている問題を解決すると、いまのあなたの問題が解決することがあります。

□ 受胎前・中間世退行 ・・・ いまの生と過去の生の間にある、中間世(受胎前)へ意識を戻すアプローチです。私たちは自分の人生を自分自身で計画して生まれてきているものなので、なぜ現在の問題で苦しんでいるかを知る手懸りを探ることが出来ます。

□ 未来順行 ・・・ いまの生の先にある、未来の人生へ意識を進めるアプローチです。現在の生の意味やとるべき道を知ることが出来ます。

□ ハイアーセルフ ・・・ 大いなる自己と呼ばれる、知恵にあふれた存在とコンタクトするアプローチです。ハイアーセルフはあなた自身の中にある賢者的存在です。その存在が何であるかを論議するよりも、その効果を得る方が実際的です。現在抱えている問題の意味やその解決方法、またこれからの人生についてのいろいろな示唆を受けることが出来ます。

□ インナーチャイルド ・・・ 自分の中にある子供という要素に対して行うアプローチです。いまでもうちなる子供を誰でも抱えています。その子供を自分の中に発見し、もしもその子供が何かの出来事で傷ついていたら、いまのあなたの力で癒してあげましょう。子供時代の問題や、現在の人間関係に問題がある場合に効果的なアプローチです。

□ サブ・パーソナリティー ・・・ 誰でも複数の複人格を持っています。それは私たちの自我にいろいろな側面があるのと同じで、理由があって存在しています。それらサブパーソナリティーの中には未発達のサブパーソナリティーも存在します。また、自分で問題だと思っているサブパーソナリティーを抑圧している場合もあります。そのようなサブパーソナリティーが自我全体を覆ってしまわないように、あるいは他人に対して強度の投影となって現れないようにする効果が、このアプローチにはあります。
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